昭和17年・武藤家の正月


明けましておめでとうございます。
本年もよろしくお願い申し上げます。

以前のブログよりは、更新できるようになってきたような
(それでも、ブロガーさんといわれる方から見れば・・・)

izusan_jinjya

☆伊豆山神社の茅の輪・・・八の字に三回回ると厄払いができるというもの。
お正月の時期しか見られないものです。ここから徒歩20分ぐらいに
興亜観音があります(武藤さんたちの遺骨が安置されていた場で、元松井石根大将の邸宅近く)。

何とか自分のペースで頑張っていきたいと思います

大東亜戦争が始まった直後の、陸軍省軍務局長家のお正月とは
どのようなものだったのでしょう。

こんな資料を見つけました。

の中の194頁あたり。

武藤軍務局長が大東亜戦争開戦を何とか食い止めようと奮闘するも
結局開戦の覚悟を(軍事事務的に)決めようとしている
怒涛の時期から一転、実は静かなお正月を過ごされていたようです。
もちろん、世論は「打倒米英」の叫びや運動で沸き立ち、青年将校たちも
あちこちの集会に招かれたりなど忙しかったようです。
マスコミは大勝利の快報を伝えるのに忙しかったはずなのですが、
なぜか陸軍省軍務局長家は静かだったとのことです。

しかしそれは、武藤章さん個人としても、最後の家庭での正月だったのですが・・・。

武藤さんとよく論争していた矢次一夫氏も自宅でゆっくり過ごしていたようですが
そんなときに武藤さんから
なぜ正月だというのに、酒をのみにこないのか?

「戦勝気分で、いまや大軍務局長としてときめくところなど、素寒貧書生の
近づくところではあるまいよ」と誘いを断ってはみたものの
結局は武藤家(陸軍省軍務局長官舎=麹町にあった)を訪問することに。

行ってみると、一人も年賀客がいない・・・

このころの武藤さんは、軍内部でも孤立して少数人だったように、矢次さんには見えたとのこと。
矢次さんは、頑固な武藤さんが癇癪をおこして部下を縮み上がらせたりということも知っていたので、
武藤さんが孤立することで、非戦論の孤立化になることを恐れた」ということでした。

おそらく武藤さんは、矢次さん相手にゆっくり話をしたかったのではないでしょうか。

矢次さんは、武藤さんに対してかなり「きわどい」質問をしてます。

和戦の決定に悩みぬき、必勝の確算がないというのに、なぜ戦争に踏み切ったのか

武藤さんの答えは

「古今の戦史を見ると、戦うべきときに戦わなかった国家は、
相手国の屈辱に甘んずる結果、国民は志操を失い、領土や資源の多くを
奪われる結果、再起の力を持つに至らない。したがって
戦うべきとき、いやしくも腰に武器を帯びるものは、いかに必勝の自信がもてぬにせよ、
剣をとって戦うべきであり、恥に生きるよりも、名を重んじて死を選ぶべきである。
そして勝敗に拘らず、義を重んじ、名を惜しみつつ戦うことによって
敗れたりとしても、後世の国民は、戦いぬいた父祖の志操と勇気を伝承することにより、
またいつの日にか復興し得ることがあろう」

矢次さんは、この武藤さんの答えについてもかなりどぎつく批判しています。

「今回の戦争が、日清・日露戦争の如く、ロシアのアジア侵略の防止、清韓保全という大義名分が
あったのと対比し、大東亜共栄圏建設とか、米英のアジアからの追放というような
帝国主義とみられる要素が多いこと、これらを事前に処理し、むしろ国内政治革新を先行さすべきで
あった」と。

武藤さんはこのようなことを言われても感情的にならずに

「わかっていた。その通り。だからこそ近衛(文麿氏)をかついで
新体制運動を起こしたのだが、失敗したねえ。
もう、それを言うてくれるな」と苦笑されていたと。

武藤さんは、これからの最大の課題は、「終戦」であり、一日も早く、一刻も早く
好チャンスを求めて少しでも有利に「和平」をやることだ。
今日、君に来てもらったのも、そのことを今から考え、努力してほしいからだ」と力説されていたとのことです。

ちなみに、山下奉文中将統率の第25軍がシンガポール攻略するのは
昭和17年2月15日のことです。
武藤さんは、マスコミやら、青年将校の動向やら、軍内部の人間関係の煩わしさから
一時解放されたのがこの時だったと思います。
その時に、友達にこんなことを言い残していたのでした。

私自身も、一瞬、「大東亜戦争は侵略戦争的要素があったと、武藤さんのような方だっていっているではないか」
と思ってしまいます。多分私自身が楽だから。考えこまなくていいから。
多分、私の周囲で、わりと「日本はかつて他国を侵略したのだから・・・」という考えの方に
私自身が阿りそうな惧れもある。

でも・・・どのような原因があったにせよ、国民自ら開戦を支持したのだから。

武藤さんの立場は、一般国民とは違う。
政治的な要素が多い軍事事務の中枢だったのですから。
さんざん、マスコミ・国民の動向、政治家たちの動向に振り回されてきて
苦しんでこられた結果だったのです。

私個人は、直接的に「侵略戦争」と、その対極にある「聖戦」の用語を簡単に使うのは
避けたいと思っています。
自国の歴史から気概と誇りを持つのは大切です。
だからといって、あまりにも力を込めて「気概と誇り!」というのが好きではないです。
また、「過去の戦争を反省しましょう」という「謝罪史観」も好きではないです。

いま日本の中だけでも、かなりせわしなく時が過ぎているように思いますが、
そんな時でも、せめて物事を複眼的に考えられるようになりたいものです。
そのためには、多分時間が必要です。
一つの考えを、ゆっくり自分のなかで咀嚼してとらえなおす・・・。
そんな時間を少しでも持ちたいなと思います。

武藤さん、あなたは
「古今の戦史を見ると、戦うべきときに戦わなかった国家は、
相手国の屈辱に甘んずる結果、国民は志操を失い、領土や資源の多くを
奪われる結果、再起の力を持つに至らない」と言われていますが、

それはいったい、どこの国の戦史を例にとられたのでしょうか?
どうか教えてくれませんか?


昭和17年・武藤家の正月” への4件のコメント

  1. 何時も陰ながら拝見させていただいております。面白い文章、有り難う御座います!!
    そして管理人さんの仰ることを振り返りつつ、武藤中将の中公文庫の本を日々読み返しております。

    武藤さんは一切浮かれないでしょうね(笑)

    堀栄三・丈夫親子や柴山中将、山下大将と同質の軍人ですから。

    海軍だと、新見・保科・山梨・井上諸将とほぼ同質ですから。

    私が最近気になっているのは、中公文庫では学者先生のあとがきで、畑大将が武藤中将に警戒態勢だったという記述です。

    私的には?です。もっと研究の余地ありだと思います!

    何時も楽しいブログ有り難う御座います!

    • 北の住人さま
      コメントありがとうございます。
      武藤さん、山下さんは、当時のエリートではあったかもしれませんが
      「マイノリティ」だったがゆえの苦しみがあったと思います。

      畑俊六大将が武藤章軍務局長を警戒していた・・・。
      どうなんでしょうね。
      どちらとも取れるかもしれないです。
      武藤章さんの事務能力は買っていたかもしれない。
      けれど、畑さん自身が政治に不慣れなまま
      いきなり陸軍大臣という立場になってしまったことで
      武藤さんを適切に動かすよりも、振り回されるということとなり
      畑大将ご本人が大変だったのではないかと思います。
      (部下に自分の職務不慣れな様子が伝わってしまうのだから・・・。)
      矢次さんの本だったかに、軍務局長になったばかりの武藤さんが
      畑大臣の命を帯びて誰か政治家に入閣をすすめに自宅訪問したら
      やんわり断られて、「政治家にそっぽむかれた陸軍」とかマスコミネタに
      なって武藤さんが切れたというネタがありますよね。(詳しくは忘れてしまいましたが・・・)
      武藤さんは、さすがに畑さんの前では切れないものの、部下の前で大爆発!したらしいですね。
      あの方らしいな・・・。
      今後ともよろしくお願いします。

  2. 管理人様
    早速のレス、有り難う御座います(*’-‘*)

    政党政治に振り回される軍人さんたちのことは坂井潤二さんや筒井清忠さんの本に詳しいですよね。

    今度その件に関して意見論述する機会が7月にあります。論述したらお知らせ申し上げますので、ご笑覧下さいませ。

    今自分は、畑回顧録と遠藤三郎自伝を精読しています。

    山下大将や武藤中将のような人がマイノリティで終わる日本(今もあまり変わらないですね…)に疑問を持ちながら日本が好きで、管理人様のような皆様に元気をいただきながら諦めないで仕事をしております!

  3. 北の住人さま

    坂野さんや筒井さんの著書
    多分「パラ読み」「積読」ぐらいな私ですが・・・
    (本当は腰を据えて読書したいですが、もう日常生活に疲れてしまいまして・・・)

    元来、軍人は軍務だけに集中できればよいのでしょうが・・・。
    武藤さんいうところの「政治的事務」とはかなりヤクザな仕事なのだそうですね。

    私は畑回顧録、遠藤三郎自伝は、何れも書名をちらりと知っているぐらいです。

    意見論述されるのですね。
    いろいろ教えてくださいませ

    私自身も、いろいろ折れそうになりながらも
    何とかやってます。そしてたまにブログ書いてますが
    私のブログを目にとめてくださる方に本当に感謝しております。

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