「なんていうのか、中川にはなんかあるな~」

昨日のエントリーの続きです。

題名は、この書物の290頁から取りました。



この言葉は、東京拘置所内にて、中川智正氏を変わらず「ケツ」と呼ぶ親友に同行した
NHKディレクターが、中川智正本人から聞いたエピソードです。

「あるとき取調官に麻原氏の写真を見せられて
『光っているか?』と聞かれたことがあった。
写真をみて光るのか、想起するから光るのか分からないが
目の前が明るくなったので、正直にそう言った。
だから、向こうは接触しにくかったと思う。
ただ、段々付き合っていくうちに、取調官は
『なんていうのか、中川にはなんかあるな~』と思ってくれたようだった。
それは検事もそうだった。
裁判長も弁護士に、『嘘をついているわけではない、彼はなんですか?」と言っていた。
・・・だけど一審のときは、それが解離性精神障害だとは、僕も分かっていなかった」

解離性精神障害とは、精神疾患の分類のひとつで、
自分が自分であるという感覚が失われている状態。
ある時期の記憶が全くなかったり、いつの間にか自分の知らない場所にいるなどが
日常的に起こり、生活上での様々な支障をきたしている状態を指すと言われるものです。

中川被告時代の控訴審(初公判2006年3月1日、2007年7月13日判決)について
控訴審の中川弁護団は、まず、中川智正の神秘体験について理解がなく、宗教精神医学の
知識が不足しており、中川から十分な供述を引き出すことが出来ず、関係者の証言を得ることが
出来なかった、ということです。

そこで、登場するのが佐々木雄司医師(1932年-2017年)です。
佐々木医師は、青年時代にはシャマニズム研究に没頭。
学位論文『我国における巫者(shaman)』(『精神神経学雑誌』1967年5月)で国際的に評価を受け
今でも有効性を維持しているのと、地域や職場のメンタルヘルスの開拓者でもありました。

佐々木雄司医師について、中川智正氏は『ジャム・セッション』2013年6月号 で次のように書いています。
※以下、『ジャム・セッション』という雑誌を引用箇所ありますが、
読みたい方は、直接「ジャム・セッション 中川智正」で検索していってみてください。

「佐々木先生は、私のような事例の専門家で、同様な事例を収集、研究なさっていました。
先生によると、私の当時の「体験」は、激しい部類に入り、
精神科治療、あるいは「カミ(神)の道」の二つしかありえないとのことでした。

佐々木先生は、自然科学者としてのスタンスを保ちつつ、宗教学や文化人類学の知見や手法を
精神医学の研究や臨床に取り入れていらっしゃったのです。

先生との面会は気持ちが落ち着くものでした。
(中略)
私にとっては、自分の状態が学問の対象になっていると知ったことが
非常に大きかったのです。


とあるように、前回エントリーで裁判所中が荒唐無稽としか受け取られかねない中川智正の神秘体験を
重視すべきとの考えが取り入れられ、中川智正の深刻な状況が解明され始めました。
一例として、「麻原の想念が入ってくる」現象が
中川智正自身の生命をも危うくした事実が語られました。

参考文献はこちら


例えば、1990年のボツリヌス菌培養のとき、麻原などが、ボツリヌス菌に侵されないように
馬血清を打とうという事になり、中川智正は自ら点滴で馬血清を打ちました。
たちまち全身に発疹が出て息苦しくなったため
中川智正は麻原に医学的説明を行い、点滴を止める許可を求めました。
麻原は中川智正の頭頂に手を置き、点滴を続けよといいました。
すると麻原の意識が中川智正に入り込み、医者としての知識が失せ
全身がぼこぼこに晴れ、呼吸困難になった」とのことでした。
こんな状態の中で、中川智正はまだ麻原のエネルギーをもらいに行ったとのことでした。
このエピソードは、佐々木医師によると
中川智正は医師とは思えぬ自殺行為的暴挙を行い、麻原の言語に絶する壮絶な影響下にあったかを
示してあまりある
」との評価でした。

このような佐々木医師の知見を採り入れた弁護団は、
当時の中川智正の責任能力がないか著しく減弱していたと死刑の破棄を要求しました。
これに対し検察側は、解離性精神障害や神秘体験を全面否定はしなかったけれど、
各事件の刑事責任に疑問を生じさせるものでないとして
死刑の宣告を下しました。

それでも、中川智正氏としては、佐々木医師に恵まれ、
弁護団や検事が「中川にはなんかあるな~」と受け止めてくれようとしていることが
救いだったのかもしれません。

中川智正氏が処刑される前年に、この佐々木雄司医師は亡くなられました。

佐々木医師について、中川智正氏自身も最後の『ジャム・セッション』12号 2018年1月に
次のように書かれています。

佐々木先生は、私のように科学の空白の世界に迷い込んだ者をたくさん診察されました。
そして、とにかく話を聞いてくれました。
ただし、ある種不思議な出来事がどうして起こるのかを
先生は考えないのです。
聞いても答えてくれませんでした。
そして、先生は発言内容を肯定も否定もせず
記録されるのです。
簡単に書きましたが、これは奇跡的な技術です

(中略)
佐々木先生には、悪名高い私の他にも
たくさんの患者たちが感謝していることと思います。」

佐々木雄司先生のような精神科医に巡り合えた
中川智正氏は恵まれていると思いました。

精神疾患を患った者の中で、精神科医に恵まれているといえる人は
実は少ないと思います。
患者が多すぎるのかどうか、「カップラーメン状態(3分治療)」で投薬
これで終わりという人も多くいます。

これからもまだまだ、精神疾患は増加していくでしょう。
そんななかで、この1年の間に、佐々木医師と中川智正氏両方が故人となってしまったのは
残念でなりません。

最後に、『ジャム・セッション』7号 2015年6月号にある
中川智正氏のこの言葉を書いて、両人の冥福をお祈りいたします。

イスラム国に参加してしまっては、自らの意思に基づく活動をするのは不可能と思います。
私の経験や、精神科医の佐々木雄司先生から
伺ったお話からすると
イスラム国に限らずあのような組織に何か説明できない魅力を感ずる人がいるとすれば、
その人は身を投ずる前に一度、その組織からの
距離を取ってみることです。
十分な時間をかけるべきです。
周囲はその手伝いをすれば良いと思います。
強く説得するだけでは話がすれ違うだけで
良い結果にはならない気がします。